2007年7月22日日曜日

蒙古は本当に蔑称?萌古は?

漢民族による蔑称…「蒙古」と呼ばないで!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/sports/other/56730/

の記事によると、「蒙古」には「無知で古臭い」「暗い、覆いかぶせる」という意味があるらしい。そして蒙古という呼び名は漢民族ができるだけ野蛮な表記にしようとしてできた言葉。モンゴル人を蔑視していると糾弾している。

記事を鵜呑みにすることは簡単だ。しかし素朴な疑問は湧いてくる。

支配者となったモンゴル人達がそんな漢字を使うことを許すだろうか?モンゴルの皇帝フビライから鎌倉幕府への書状「蒙古国書」の中では、「大蒙古國皇帝」という単語が出てくる。つまり漢民族だけでなく、モンゴル皇帝自身も自分を侮蔑するような漢字を使っていたことになる。また「」というのは「大元大蒙古国」の略称で、「大蒙古国」から改名したのではなく、フビライが「大いなる元」という意味の「大元」をこれまでの「大蒙古国」に付け足してできた国号である。

元時代のモンゴル人誰一人として「」という漢字の意味を知らなかったというのも不自然な話だ。むしろ自国の名前の意味は真っ先に調べるであろう。そこで早速、中日辞典で漢字の意味を調べてみることにした。

すると「暗いの[矇(meng1)]」「無学の[濛(meng2)]」が、簡体字になったので「モンゴルの[蒙(meng3)]」と共通の字になったことが分かった。部首に何が着くかで意味が全く異なるというのは、日本人ならよく知っていることだ。例えば「」と「」という漢字は全く意味が異なる。氏名に「」が入る人を私は知らないが、「」が入っている人は大勢いる。[古代漢字辞典で調べたところ[(meng2)]というのも古代中国で使われていて、暗いとかという意味があるらしい(7/24)]

また(meng1)(meng2)(meng3)は発音の仕方(四声)がそれぞれ異なる。つまり現在の簡体字[]には三種類の発音方法があり、その発音の違いにより意味が異なる。日本語では区別が曖昧だが、中国では四声が異なるというのは大きな違いだ。(現に四声が覚えられない私はいつも苦労している。) さらに言うと(meng3)の発音を使う[]の中で、悪い意味の熟語は中日辞典に一つも見あたらない。

と言うわけで、中国で[]が侮蔑的な意味を含むようになったのはごく最近の1960年代からではないか?「蒙古という呼び名は漢民族ができるだけ野蛮な表記にしようとしてできた蔑称」という意見にはかなり疑問が残る。

ただ簡体字になり、これら三つの漢字が共通の文字にしてしまったことは問題である。また日本語の[]はこれらの三つの意味の区別が中国語よりも曖昧だ。現在のモンゴルの人たちが使って欲しくないというならば、それを尊重すべきであろう。

モンゴルにはいろいろな当て字があったことも付け足しておく。また気に入らなければ、自ら別の漢字で当て字を作ることもできただろう。国書を送るとき、フビライはその中から「蒙古」をなぜ選択したのだろうか? 他の当て字の一つ[萌古(meng2gu3)]を書き込んでいたら、今頃モンゴルはオタクの聖地になっていたのかも知れない。