2007年8月22日水曜日

劣化ウラン弾無害説への反論

今回は中国とは関係のない話。某所で

  1. 劣化ウランの主成分はウラン238(半減期45憶年)であり、ウラン238の45憶年かかってやっと半分になるくらい安定した物質であるから、放射能汚染なんてあるわけがない。
  2. 放射線の出ない劣化ウラン弾がガイガーカウンターに反応するわけがない。
という恐ろしく無知な書き込みを見かけた。のでそれに関して書きたいと思う。

確かに自然に存在するウランよりは放射能は少ない。それは天然ウランからウラン235(半減期約7.0億年)を抽出した残りかすだから当然である。

しかしあくまで「自然に存在するウランよりは」であって、劣化ウランはIAEAが査察対象としている立派な放射性物質である。従って、原発は燃えないゴミとして劣化ウランを捨てることができないのだ。もし過って捨ててしまえば国際的なニュースになる。

  1. 原子力研究院がウラン紛失、ごみと一緒に焼却か』(2007年8月10日)
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070810-00000004-yonh-kr
    韓国原子力研究院は9日、天然ウラン1.9キログラムと、10%濃縮ウラン0.2グラム、劣化ウラン0.8キログラム、電子ビーム加熱用銅るつぼが入った箱を管理不備のため紛失した事実を確認したと明らかにした。

では劣化ウランが立派な放射性物質であることを示すため、1グラムの劣化ウラン(ウラン238:半減期45憶年)が一秒間に何回崩壊するかを考えてみよう。

一個のウラン原子が一秒間に崩壊する確率
Log(2)/(4.51*10^9*365*24*3600)
= 4.8735 * 10^-18 [回/(g*秒)]

確かにこれだけ見れば放射能汚染なんてないように見えるかも知れない、しかしウラン1グラム中には (6.02*10^23)/238 個の原子が存在する。よって

1グラムの劣化ウランから1秒間に放射能を出す量は
Log(2)/(4.51*10^9*365*24*3600)*(6.02*10^23)/238
=12327 [回/(g*秒)]

なのだ。ウラン1グラムの大きさは 1cc/19 = 0.053cc。(cc=1cm^3)だから、たった 0.053cc の大きさのものから毎秒12327個の放射線が出る物質が本当に安全なのか?

アフガニスタンで使われたレイセオン製のバンカー・バスター(GBU-28)には1.5トンもの劣化ウランが装填されていたそうだ。劣化ウラン弾は目標に衝突すると燃焼する。それによって劣化ウランが粉塵となり、体外と体内の両面から被爆する可能性は十分にあるのだ。


そう言う前知識を持って米国大使館のHPを読んでみると面白い。

劣化ウランに関するよく尋ねられる質問
http://tokyo.usembassy.gov/j/p/tpj-j20031006d1.html

真実を使っていかに真実を都合良く歪めることができるかを示す格好の題材である。つっこみ所満載のページなのだが、たとえば以下の表記を検証してみよう。
  1. 劣化ウランの放射線は、われわれが日常的に受けているバックグラウンド放射線(自然界に偏在している微量の放射線)と大きな違いはない。劣化ウランの放射性は弱い。例えば、多くの古い夜光腕時計にいまだに使われているラジウムの300万分の1、また火災検知器に用いられているものの1000万分の1に過ぎない。
この文章には嘘はない。確かに我々は放射線を日常的に受けているし、ラジウムと劣化ウランが同数あったときの放射能の強さを比較すると。1600年/45億年 = 1/2812500 = 約300万分の1である。


「日常的」と言われると、確かにラジウム(半減期1600年)はラジウム温泉とかで
我々日本人にとって身近な物質だ。これだけ読むと、ラジウム温泉の放射能の300万分の1しかないのかと、ミス・リーディングする人も多いだろう。

しかし、ラジウムは自然界にどれだけ存在するのか?自然界の中でラジウムが多い場所と言えばラジウム温泉を思い浮かべる人が多いだろう。ラジウム温泉というからにはラジウムがさぞかし豊富に含まれていると思うかもしれないが、所詮「温泉法上でラジウム温泉の定義として採用されているのは、ラジウム塩含有量が温泉水1kg中に1億分の1mg以上」である。

つまりラジウム温泉水 1グラム(1cc) 中に生ずる放射線数は毎秒

Log(2)/(1600*365*24*3600)*(6.02*10^23)/226*(1/(100000000*1000*1000))
= 0.000365921 回/(g*秒)

程度である。(おおよそのオーダーはこれで正しいだろう)

従って劣化ウラン1グラムとラジウム温泉水1グラムを比較すると、劣化ウランは自然界のラジウムよりも放射線が

12327/0.000365921 = 3.3688*10^7

約3370万倍も強いということになる。

これはどういう事だろう?
同じ正しい科学知識から出発しながら、全く正反対の結論が出てきたではないか。

このような手法は、良く似非科学で見かけられる。
(マイナスイオン、ゲルマニウム、トルマリン等々。これらについては、またいずれ書くことにしよう。)
つまり真実を使って、自分の思う通り相手を欺くことができるのだ。

騙されないためにはどうすればいいのか?
正しい科学知識を持つことは当然のこと、正しい科学的な思考法を身につけ、記事を鵜呑みにせず自分で考えることが大切だと思う。